第三章 イヌのノーリード禁止(第9条) | 動物愛護法を読んでみよう

第三章 動物の適切な取り扱い・第一節 総則(第9条)

イヌのノーリード禁止の根拠

(地方公共団体の措置)
 第九条  地方公共団体は、動物の健康及び安全を保持するとともに、動物が人に迷惑を及ぼすことのないようにするため、条例で定めるところにより、動物の飼養及び保管について、動物の所有者又は占有者に対する指導その他の必要な措置を講ずることができる

 この条文はめちゃくちゃ重要です。

 この第九条は、動物の飼養及び保管について、地方公共団体に自治裁量権を認めた条文です。つまり、飼い方・管理の仕方の詳細は飼い主さんの住んでいる自治体で決めてくれといっているんですね。

 こういう状態を、「法律が条例に委任をしている」と言います。「必要な措置を講ずることが出来る」といっているんですから、もちろん、決めなくてもいいんですよ。でも、地域住民にもペットについて色々言い分は出るでしょうから、普通はどの地方公共団体でも、この措置は決めています。

 そして、犬の飼育はこの条文を根拠に、自治体によって微妙に差が出ます。具体例として、ノーリード問題をサンプルに、いくつかの地方自治体の条例を見てみましょう。

その1:東京都の条例(東京都動物の愛護及び管理に関する条例 第九条)

 (犬の飼い主の遵守事項)
 第九条 犬の飼い主は、次に掲げる事項を遵守しなければならない。
一 犬を逸走させないため、犬をさく、おり、その他囲いの中で、又は人の生命若しくは身体に危害を加えるおそれのない場所において固定した物に綱若しくは鎖で確実につないで、飼養又は保管をすること。ただし、次のイからニまでのいずれかに該当する場合は、この限りでない。

 第九条第一項の原則論を注意深く見ていきます。まず、飼い主は犬の逸走を防がなければならないから、そのため取る手段は、以下の二つが原則です。

・「犬をさく、おり、その他囲いの中で飼う」→例えば、犬舎とか家の中
・「人に危害を加える恐れのない場所で固定した物に綱・鎖で確実につなぐ」
                   →例えば、広い庭で犬をつないで飼う

 しかし、イ~ニに該当する場合は特に上記の手段は必要ないといっています。それぞれ確認していきましょう。

イ 警察犬、盲導犬等をその目的のために使用する場合
  これは当たり前です。警察犬や盲導犬は、一般の人に迷惑にならないよう、十分訓練がされていますからね。

ロ 犬を制御できる者が、人の生命、身体及び財産に対する侵害のおそれのない場所並びに方法で犬を訓練する場合

 「犬を制御できる者」の定義が不明ですが、後に「訓練」とありますので、「訓練士」などを想定していることがわかります。「犬の訓練士」は国家資格ではないので、条文上に明記されることはありません。

 つまり、イの例で考えれば、警察犬訓練士、盲導犬訓練士、他には聴導犬訓練士なんかがそれに該当しますね。「人の生命、身体及び財産に対する侵害のおそれのない場所及び方法」は、きちんと場合分けして考えましょう。

・「人の生命、身体及び財産に対する侵害のおそれのない場所」 → 警察犬訓練場など。
・「人の生命、身体及び財産に対する侵害のおそれのない方法」 
            → 警察犬の場合だとチョークチェーンなんかを使いますね。

 こんな感じです。つまり、一般の飼い主さんを想定している条項でないことがわかります。

ハ 犬を制御できる者が、犬を綱、鎖等で確実に保持して、移動させ、又は運動させる場合

 ここも「犬を制御できる者」の定義が不明ですが、後に「移動」と「運動」が入りますので、一般の犬の飼い主さんもここに含まれると考えてよいでしょう。「移動」は引越し等、「運動」は散歩ですね。

 つまり、「散歩のときはリードをつけなさい」というのはこの条項を根拠にしています。もっと言えば、警察犬、盲導犬なども、単なる散歩の場合にはリードをつけなければならないのは当然の事です。

ニ その他逸走又は人の生命、身体及び財産に対する侵害のおそれのない場合で、東京都規則(以下「規則」という。)で定めるとき。

 これは東京都規則を見ないとわかりません。

(犬の飼養の特例)
 第三条 条例第九条第一号ニに規定する規則で定めるときは、次の各号に掲げるとおりとする。
 一 犬を制御できる者の管理の下で、犬を興行、展示、映画製作、曲芸、競技会、テレビ出演又は写真撮影に使用するとき。
 二 犬を制御できる者が犬を調教するとき。

さて、第一項は、CM撮影、アジリティ競技会、ドッグショーの本番をさしています。これらの場合は、特にリードをつけなくてもいいよと言うことです。

 では、第二項はどういう内容かというと、今度は「調教」という言葉が出てきました。調教は第一項の興行、展示、映画製作などのための調教という意味になります。ちなみに、この法律上、「調教」は「しつけ」と異なる意味で使われています。なぜなら、条例の第九条第三項で「しつけ」という別の単語を使用しているので、単なる「お手」や「お座り」は調教を意味しないのです。

 簡単に言えば、第一項はドッグショーの本番、第二項はドッグショーの練習ということです。

 そして、これに違反した場合は、どうなるかというと、次の条文を見てください。

第三十九条 次の各号の一に該当する者は、拘留又は科料に処する。
 一 第九条第一号の規定に違反して、犬を飼養した者

 「拘留」と「科料」は刑法に載っていますので、ノーリードでの散歩は立派な刑法罰です。前科がついてしまうということです。ちなみに「過料」というのもあって、読み方は同じなのですが、こちらは通称「あやまちりょう」と言われるもので、刑法罰ではありません。

 結局、東京都でノーリードで犬を散歩させたら犯罪だよということになりますね。では、他の地方公共団体はどうでしょうか?「秋田犬」のルーツ、秋田県を見てみましょう。

その2:秋田県の条例(秋田県動物の愛護及び管理に関する条例 第九条)

(飼い犬の係留義務等)
第九条 飼い犬の飼い主は、当該飼い犬を常時係留しておかなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
一 警察犬、狩猟犬、盲導犬その他の使役犬をその目的のために使用するとき。
二 当該飼い犬を制御できる者が、人の生命、身体又は財産に害を加えるおそれのない場所又は方法で当該飼い犬を訓練するとき。
三 当該飼い犬を制御できる者が、当該飼い犬を、丈夫な綱又は鎖で確実に保持して、人の生命、身体又は財産に害を加えるおそれのないように、移動させ、又は運動させるとき。
四 当該飼い犬を制御できる者が、人の生命、身体又は財産に害を加えるおそれのない場所又は方法で、当該飼い犬を興行、展示、競技会その他規則で定める目的のために使用するとき。
五 当該飼い犬が生後九十日以内であるとき。

 狩猟犬ですよ。さすが秋田県ですね。東京にはない発想だと思います。第五項もちょっと変わっていますね。生後九十日では、人的な被害がないと考えてのことでしょう。ただ、生後九十日でノーリードの散歩は無理でしょうけどね。

では、次は青森県です

その3:青森県の条例(青森県動物の愛護及び管理に関する条例 第九条)

(係留義務)
第九条 飼い主は、その飼い犬について、常に係留をしておかなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
一 人の生命、身体又は財産に害を加えるおそれのない状態で訓練し、又は運動させるとき。
二 人の生命、身体又は財産に害を加えるおそれのない状態で、展覧会、競技会又はサーカス等において展示し、又は競技若しくは曲技させるために、使用するとき。
三 警察犬、盲導犬その他これに類するものとして知事が認める用途に供される犬をその用途に従い使用するとき。
四 その他知事が特別の理由があると認めるとき。

 青森県は運動の際に、係留義務が外れるという珍しい条文構成になっています。「人の生命、身体又は財産に害を加えるおそれのない状態」とはかなり広い解釈が可能です。たとえば、口輪をさせるとか、咬まないようしつけをするとか、いろんな主張が可能です。このあたりは、その地域にすんでいる住民の意思によって決まることになります。

 第九条は結構盛りだくさんでしたね。法律と条例の連係プレーがご理解いただけたかと思います。

 ここで、「なぜ犬の飼い方を法律で決めないの?」という疑問がわいてきませんか?その理由は、先ほど挙げた地域住民の意思に任せるということが大きいです。例えば、その地域でイヌのしつけをきちんとしているような場合は、「リードをわざわざしなくても良いんじゃないの」という意見が出てくるかもしれません。住民の方々の意向に任せていると言えますね。

 ここまで、第一節はおしまいです。

第三章・第一節のまとめ

 第三章・第一節の内容をまとめると・・・

  • 動物を預かった人、ペットショップ、ブリーダーにはそれぞれ負うべき責任がある
  • イヌのノーリード問題は、都道府県単位の条例で決められている

 こんな感じでしょうか?では、第三章の残りの節に行きましょう!!